こんばんは。ユースケです。 自己紹介:BAR WHITE OAK 店主。ウイスキーライター。ウイスキー文化研究所認定 ウイスキーエキスパート。JSA認定 ソムリエ。2022年1月20日 東京・銀座にBAR WHITE OAK(バーホワイトオーク)をオープン。
この記事ではウイスキーの樽熟成について、ウイスキー初心者の方にもわかりやすく解説したいと思います。 ウイスキーにとって、樽での熟成はもっとも重要です。 香りや味わいは、多くの要素が「樽」によってもたらされるのです。
そんなウイスキーの樽熟成についてを、さまざまな視点から解説していこうと思います。 少し専門的な話が多くなってしまいますが、「ウイスキーがなぜおいしくなるのか?」という疑問に迫った内容になっています。 ご興味のある方は最後まで見ていただけたら嬉しいです。
ウイスキー初心者向け講座 樽熟成について「樽」とは?
「樽」とは?
ウイスキーコニサー資格認定試験教本
↓2018上巻
↓2020中巻
↓2021下巻
ウイスキー初心者向け講座 樽熟成について 樽の原料「オーク」とは?
樽の原材料である木材は、オーク(ナラ)が一般的です。
オークとは?
ウイスキーに使われるオークの種類
- ホワイトオーク: 北米産。バーボン、スコッチに使われる。ワインやシェリー用その他のお酒にも広く使われている。
- コモンオーク(ヨーロピアンオーク): ヨーロッパに広く分布。ワインやブレンデー、シェリーに使われる。スコッチでは「マッカラン」がコモンオークのシェリーカスクを使っている。
- セシルオーク: フランス産が主流。基本的にはワイン用。ウイスキーにもワインカスクでの熟成が多くなり、使われるようになってきた。
- ミズナラ: 日本のオーク。ウイスキーには白檀や伽羅のような独特の香りが付加されることから、海外の蒸留所からも注目されている。
ウイスキー初心者向け講座 樽熟成について 樽熟成の目的
もともとは密造酒時代に、ウイスキーは熟成させる目的ではなく、隠すためや運搬の目的で樽に入れられました。その後、ウイスキーは樽で熟成させたほうがおいしくなることが広まり、樽熟成が一般的になっていったのです。
樽熟成の目的(おいしくなる理由)について解説します。
樽熟成の主な目的
アルコールの刺激をまろやかにする
アルコールの分子と水の分子が結合していくと、アルコールの刺激が弱くなります。ウイスキーが、ホワイトスピリッツ(ウォッカやジンなど )と比べるとまろやかに感じるのはこの為です。結合の度合いは熟成年数を重ねていくと大きくなっていきます。長期熟成のウイスキーがやわらかく感じる理由の一つですね。
ニューポットにあるオフフレーバーの除去
オフフレーバーとは、蒸留直後の液体(ニューポット)にある「嫌な香り」のことをさします。このフレーバーの除去のために樽熟成が必要なのです。樽熟成は外気との呼吸で進行していきますが、この時に水分と一緒にオフフレーバーも揮発します。ウイスキーの香りの欠点を取り除くことでおいしくなるのです。
香りを豊かにする
熟成によって、様々な化学変化が起きます。ウイスキーの熟成は神秘的なところもあり、熟成に関しての詳しいことは、まだ科学的に解明されていません。
しかし、樽材から成分溶出の影響などで、ウイスキーの香りが複雑になることはがわかっています。バニリンなどのバニラ香の成分や、エステルによるフルーティーな香りなどが、樽熟成によって生まれるのです。香りの成分が増強されることで、ウイスキーに複雑さがうまれておいしくなっていくのです。

樽熟成によって「樽ポリフェノール」が生まれる。
樽ポリフェノールとは、強い抗酸化作用をもつフェノールの一種で、活性酵素の除去や、動脈硬化の抑制などの様々な健康面での良い影響がある成分のことです。苦みや渋みの成分のことでもあります。ウイスキーの健康効果のひとつとして、この成分が注目されています。
ウイスキー初心者向け講座 樽熟成について 「エンジェルズシェア」とは?
樽が呼吸する「エンジェルズシェア」
ウイスキーが琥珀色に酸化熟成(酸化反応)するのは、樽の内部と外気との「呼吸」があるからです。呼吸によって、ニューポット(蒸留液)に 化学的・物理的な変化がおきていきます。
樽は一見すると密封しているように見えますが、樽の木材には目に見えない小さな隙間があり、そこから呼吸が行われています。それによって、ウイスキーはアルコール分や水分が抜けていき、樽内のウイスキーは減っていきます。
このことを「エンジェルズシェア」(天使のわけまえ)といい、天使にウイスキーを与えた分、おいしくなっていくとされています。
「エンジェルズシェア」はスコッチウイスキーの場合、平均で年2~3%くらいですが、樽の熟成環境や樽の種類・大きさによってかなり変化していきます。エンジェルズシェアが多いということは、熟成が早いということにもなります。

ちなみに、外気との呼吸がない樽(ステンレスタンクなど)にウイスキーをいれても熟成はしません。天使の分け前がないとウイスキーはおいしくならない。天使ってこわい(笑)
ウイスキー初心者向け講座 樽熟成について 樽の歴史
樽の歴史について簡単に解説します。
樽は非常に古くから人類が使ってました。そして驚くことに、1世紀ごろには樽の原型となるものが、すでに作られていたのです。
樽の歴史は「ウイスキーの歴史」でもあります。ウイスキーは昔は熟成させずに飲む「蒸留酒」でしたが、密造時代に熟成させるものに変わっていったのです。
樽の歴史
- 1世紀ごろ: 古代ローマ人によって、側板を組み合わせた現在使われている樽の原型になるものが作られるようになる。
- 11~13世紀ごろ: 十字軍(キリスト教の遠征軍)が食料や飲料の運搬用に樽を使っていたという記録があります。このころには現在とほぼ変わらない作りをした本格的な樽が作られていました。市民生活の中でも定着していった樽は、軽量の単位にもなることで、さまざまな容量が作られるようになっていきます。

樽の形状や作り方は、基本的に大昔から変わっていないのです。
- 16世紀ごろ: 樽の名称、種類、容量などが確立します。現在も使われているものになります。
- 18世紀: シェリー樽(ワイン樽)が、熟成や運搬用に再利用されることが一般化していきます。当時はまだ熟成させない蒸留酒であったスコッチは、密造酒時代に運搬や隠すためにシェリー樽に入れられます。このことがきっかけになって、ウイスキーを樽で熟成されるようになったのです。
- 1945年以降: 第二次世界大戦後からは、バーボンウイスキーの樽の買い付けが始まり、再利用するようになった。(スコッチでいうバレル、バーボンカスク)
ウイスキー初心者向け講座 樽熟成について「樽」の種類
ウイスキー用の樽の種類はこちらの記事に記載しています。
まとめ
ウイスキー初心者向け講座 樽熟成について「樽」とは?
→木樽の総称のこと。
ウイスキー初心者向け講座 樽熟成について 樽の原料「オーク」とは?
→ナラの木。世界中に分布し数百種類ある。
ウイスキー初心者向け講座 樽熟成について 樽熟成の目的
→アルコールの刺激をまろやかにする、ニューポットにあるオフフレーバーの除去、 香りを豊かにする 。
ウイスキー初心者向け講座 樽熟成について 「エンジェルズシェア」とは?
→外気との呼吸によってウイスキーが減っていくこと。
ウイスキー初心者向け講座 樽熟成について 樽の歴史
→11世紀ごろには現在とほぼ変わらない樽が作られていた。
ウイスキー初心者向け講座 樽熟成について「樽」の種類
→こちらの記事を参考。


人類がウイスキーに樽を使い始めてから、長い年月が経っています。 しかし、樽熟成については、まだ解明されていないことも多く、今もなお研究が進んでいます。これから樽の熟成について、科学的に解明されていったらどんなウイスキーができるのでしょうね。楽しみです。
ウイスキーに多くの要素を生み出す「樽」。 ウイスキーをおいしくしてくれる樽に感謝しながら、飲んでいきましょう!

あなたの人生がウイスキーによって幸せになることを願っています。最後までご覧頂きありがとうございました。それでは、また。
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