こんばんは ユースケです。
自己紹介:BAR WHITE OAK 店主。ウイスキー文化研究所認定 ウイスキーエキスパート。JSA認定ソムリエ。2022年1月 東京・銀座にBAR WHITE OAK をオープン。YouTube、TikTokでカクテル動画を公開中!
この記事ではジャパニーズウイスキーの定義の解説、これまであった問題点、表記・表示のルールについてと、今回の定義で認められているおすすめジャパニーズウイスキーをご紹介致します。
2021年4月1日からジャパニーズウイスキーの定義の適用が開始しました。
これまで日本にはスコッチウイスキーのような明確な法定義が存在せず、日本産ではないジャパニーズウイスキーが市場に横行する事態となっていました。それらのボトルは消費者に誤解を与える表記・表現が多く、このような状態が続けば、ジャパニーズウイスキーのブランドイメージに悪影響を与えかねません。こうした事態を避けるために、ジャパニーズウイスキーの定義を定めることとなりました。
海外のウイスキーと違い、今回の定義に法的な縛りはありません。しかし、業界内で強い影響力のあるルールとし、「自称ジャパニーズウイスキー」を市場からなくすることができる定義となっています。
スコッチよりも厳格化!2021年ジャパニーズウイスキーの定義とは?
ウイスキー製造メーカー数十社が加盟する「日本洋酒酒造組合」が発表した、「ジャパニーズウイスキー」と表記するための定義(法律ではなく、自主的な新基準となります)
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原料として用いてよいのは麦芽、穀物、日本国内で採取された水のみ。この場合麦芽は必ず使用すること。
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糖化、発酵、蒸留は日本国内の蒸留所で行うこと。
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蒸留の留出時のアルコール度数は95%未満とする。
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熟成は容量700リットル以下の木製樽に詰めて、樽詰め日の翌日から起算して3年以上を日本国内において行うこと。
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瓶詰は日本国内において容器詰めし、その場合のアルコール度数は40%以上とすること。
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瓶詰め(容器詰め)に際して、色調整のためのカラメルの使用は認められる。
『ウイスキーガロア2021年4月号』より引用
日本国内でウイスキー製造免許のある約82社が、この基準を遵守することになっています。2021年3月31日以前に販売されたウイスキーについては、表記の変更まで3年間の猶予期間が与えられています。つまり2024年には、ほぼ全ての国産ウイスキーがこの定義にそった形での販売となります。
スコッチよりも厳格化!2021年ジャパニーズウイスキーの定義とは?以前までの「問題点」を整理
日本では酒税法が定めたウイスキーの定義は存在していましたが、それはあくまでも税金についての規定です。ウイスキーの表記や製造についての細かいルールはありませんでした。このような国は5大ウイスキーのなかでは日本だけ。他の4大ウイスキーにはそれぞれのブランドを守るために、かなり昔から法定義が存在していました。
ジャパニーズウイスキーの定義を制定する必要があったのは、以下の問題点を改善するため。
1,原産国の規定がない
ジャパニーズウイスキーなのに原産国の表示義務がない…そもそもの問題です(笑)原産国の規定がありませんから、海外の原酒を100%使用しているものでも日本産のウイスキーのように売ることが可能でした。
2,熟成させていなくてもウイスキーと言える
ウイスキーの国際的な定義として「穀物を原料として、糖化、発酵、蒸留を行い、木製の樽で貯蔵し熟成させた酒類」というルールがあります。しかし、ウイスキーと名乗るために最低限度必要な「木樽の熟成」ですら、かつての日本では必要なかったのには今となっては驚きです。
先ほども触れましたが、日本では酒税法が定めたウイスキーの定義だけが存在していたため、熟成しているかどうかの基準は全くなく、ニューポット(蒸留直後の液体)であったとしても「ウイスキー」と表記して販売することができました。
3,ウイスキー以外の醸造アルコールやスピリッツを90%まで混ぜることができる
かつてはウイスキー以外のお酒を入れて「量増し」しても良いことになっていました。その混合率も実に90%までという驚異的な数字。ウイスキーの方が圧倒的に少ないブレンド比率でつくられた「謎の混合酒」でも、ウイスキーとして販売することができたのです。現在ではそこまで他のお酒で薄めたウイスキーはありませんが、ウイスキーの国際的な法定義から大きく外れたルールが適用されていたことは大きな問題点でした。
ちなみにカナディアンウイスキーの場合は、スピリッツやワイン(カナダ産以外の物を含める)を添加していいことになっていますが、その上限比率は9.09%となっており、ウイスキー以外のお酒が大量に混合されることを法定義で防止しています。
スコッチよりも厳格化!2021年ジャパニーズウイスキーの定義とは?6つの定義の解説
かつては無法状態⁉であったジャパニーズウイスキーの定義ですが、今回決められた基準は非常に厳格なものとなっています。6つの定義を細かくみていきましょう。
1,原料として用いてよいのは麦芽、穀物、日本国内で採取された水のみ。この場合麦芽は必ず使用すること。
まず原料として認められているものは麦芽、穀物。これはウイスキーの国際的な定義に順じていますね。国内採取の水を使用することも、本格的なウイスキーの絶対条件と言えます。ウイスキーの99.9%は「水」と「アルコール」ですからね。海外の水を使ってジャパニーズウイスキーと名乗るのはおかしいことです。
「麦芽は必ず使用すること」とありますが、ウイスキーの醸造には必ず大麦麦芽を利用しています。つまり、麦芽以外の麹菌などの使用を禁止するための決まりと言えます。このルールがなければ、たとえば焼酎などの蒸留酒を樽熟成させると「ウイスキー」と名乗れるようになってしまいます。
2,糖化、発酵、蒸留は日本国内の蒸留所で行うこと。
4大ウイスキーの全てに適用されている、自国での製造を取り決めるルールとなります。糖化、発酵、蒸留のうち一つでも海外で行われているようであれば、純粋なジャパニーズウイスキーとは言えませんよね。
3,蒸留の留出時のアルコール度数は95%未満とする。
スコッチでも「アルコール度数94.8%以下で蒸留」という定義があり、このルールも同様の意味を持ちます。ポットスチルで造るモルトウイスキーであれば、そもそも95度というかなり高いアルコールでの蒸留というのはありえませんし、連続式蒸留器でつくるグレーンウイスキーでも同じことが言えます。つまり、普通にウイスキーを造っていれば95%以上の度数にはなり得ません。工業用の蒸留器などの、本来ウイスキーに使用されることのない設備での蒸留を防ぐための定義となっています。
4,熟成は容量700リットル以下の木製樽に詰めて、樽詰め日の翌日から起算して3年以上を日本国内において行うこと。
スコッチ、アイリッシュと同様の定義。3年以上国内で熟成することが条件になっています。樽の容量も同じで、通常ウイスキーの熟成に使用される樽で700リットル以上のものは存在していません。熟成樽の大きさとして常識的な範囲が700リットル以下となっています。
ちなみに大きさの上限はありますが「下限」については触れられていません。国際的な定義でも樽がいくら小さかろうと問題ないことになっています。新しい蒸留所などではオクタブ(45~68リットル)で熟成されることも多くなっていますが、ウイスキーの原酒造りに適していると判断された場合は、将来的にもっと小さな樽の利用があるかもしれませんね。
5,瓶詰は日本国内において容器詰めし、その場合のアルコール度数は40%以上とすること。
アルコール40%以上のボトリングは本格ウイスキーの国際基準となっています。しかし「日本国内において瓶詰めする」という基準に関しては、ジャパニーズウイスキーの定義のみに適用されたルールとなっており、スコッチやアイリッシュには存在していません。先発となっている2カ国の基準よりも厳格に制定されています。
6,瓶詰め(容器詰め)に際して、色調整のためのカラメルの使用は認められる。
「容器」という文言に関してはこれからの新時代に対応したもの。ボトルの材質が主流のガラス瓶から他の素材に移行しても問題のないような、未来に向けた新基準が適用されています。
色調整のカラメルの使用はスコッチ、アイリッシュでも認められており国際基準と言えます。あくまでもカラーリングは「カラメル」のみ。他のものは添加してはいけません。ノンカラーリングのウイスキーが近年増えてはいますが、まだまだオフィシャルボトルではウイスキーの色合いを調整する為の色素添加が行われています。ウイスキーの風味に影響を与えるものではないので問題はありません。
次のページでは表記ルールについてとおすすめのジャパニーズウイスキーをご紹介
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