ピート(peat)とは?スモーキーなウイスキーに不可欠な「泥炭」を解説

ユースケ
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こんばんは ユースケです。

自己紹介:BAR WHITE OAK 店主。ウイスキー文化研究所認定 ウイスキーエキスパート。JSA認定ソムリエ。2022年1月 東京・銀座にBAR WHITE OAK をオープン。YouTube、TikTokでカクテル動画を公開中!

この記事ではスモーキーなモルトウイスキー造りに必要不可欠な「ピート(泥炭)」について解説致します。スモーキ―なウイスキーが好きな方でも、ピートについては詳しく知らない方も多いのではないでしょうか?

伝統的なスコッチウイスキー造りに欠かせない、謎のアイテム「ピート」は、ウイスキーの風味に影響を与える重要な要素の一つ。ピートをより深く理解し、その魅力を知って頂ければ幸いです。

 

【初心者向け】ピートの解説記事↓

 

 

ピート(peat)とは?スモーキーなウイスキーに不可欠な「泥炭」を解説

出典:CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=244682

ピート【peat】とは?

ピートは、日本語では「泥炭(でいたん)」、アイルランドでは「ターフ」と呼ばれており、泥状の「炭」のこと。石炭の一種とされています。

見た目は何の変哲もない真っ黒な「泥」ですが、採取して乾燥させることで可燃性のある「燃料」となります。

ピートに火をつけると炎が上がるだけではなく、大量の煙が発生します。この煙でウイスキーの原料「大麦麦芽(モルト)」を「燻製」のようにすることで、独特な香りが付き、ウイスキーにスモーキーな風味を与えることができます。燻した大麦麦芽のことを「ピート麦芽(ピーテッド麦芽)」と言います。

また、ピートは石炭のような「火力の強い燃料」とはなりませんが、スコットランドの一部地域では、薪の代わりに乾燥したピートを暖炉に入れて火を付け、部屋を暖めたり料理の熱源として利用されていました。ピートを採取できる地域では、ウイスキー造りに使用されるだけではなく、燃料として一般人にとっても身近な存在なのです。

 

大麦麦芽(モルト)についての解説記事↓

モルトウイスキーの造り方↓

 

 

ピート(peat)とは?ノンピート麦芽について

ウイスキー造りにおけるピートの役割は、大麦麦芽(モルト)を乾燥させる工程で、燻煙によって水分を飛ばし、スモーキーな香りを付与させることにあります。しかし全ての大麦麦芽をピートで燻しているわけではありません。ウイスキーのタイプによって、ピートは使用の有無や燻煙時間に差があったり、全くピートを使用しない「ノンピート(ノンピーテッド)」もあります。

現在、ノンピート麦芽は「温風」を利用して乾燥させています。かつて蒸留所の「キルン棟」で製麦を行っていたときは「無煙炭(コークス)」を熱源にしていたそうです。どちらの方法も大麦麦芽にスモーキーな香りがつくことはありません。

ピートはウイスキーに独特な風味と香りを与え、スモーキーなウイスキーを造る上では欠かすことのできない重要な「燃料」ですが、ピート麦芽を使用するかどうかは各蒸留所が判断しており、生み出されるウイスキーの個性に直結しているのです。

 

「ノンピート」のおすすめウイスキー紹介記事↓

 

 

ピート(peat)とは?蓄積する条件と採取

ピートの形成条件

ピートが形成される条件としては、主に寒冷な気候であること。植物が完全に分解せずに堆積(腐葉土にならず)し、濃縮されることで形成します。

ピートが蓄積した湿地帯は「泥炭地」と呼ばれています。このような湿地帯は、ウイスキーの本場スコットランドにだけある訳ではなく、形成条件が揃っている場所は世界中に存在しており、日本では主に北海道を中心に広く分布しています。

ピートは比較的簡単な条件下で形成されるので、世界中に大量に存在しています。ピート層はわずか15cmの堆積に約1,000年かかるとも言われていますが、ウイスキー用に使用するピートはごくわずか。昨今のウイスキーブームによって、ピートの消費量は年々増加していますが、枯渇する心配はほとんどないと考えられています。

 

ピートの採取

ピートはピート湿原にある「ピートボグ」と呼ばれる採取場から切り出されます。地面に掘り起こしてから、3~4カ月ほど天日干しで乾燥。

ピートにこだわっているアイラ島の「ラフロイグ」や「ボウモア」、オークニー諸島の「ハイランドパーク」などは、独自のピートボグを所有しており、自家製ピートで自家製麦芽を作っています。

 

 

ピート(peat)とは?採取する地域による品質の差

ピートは全て同じではありません。ピートは一定条件化で形成されるため、世界中で採取することが可能ですが、地域によって異なる性質を持っています。

例えばウイスキーの聖地と呼ばれる、スコットランドのアイラ島で採れるピートは、香りが強いことで有名です。これは、アイラ島のピートは海産物が堆積していることから。独特の潮気、ヨード臭、消毒液、焦げた匂い、薬品臭は、アイラ産ピート(特に沿岸地域)ならではの強烈な個性。モルトにヘビーなピート臭を付与することができます。

 

そのほか、スコットランドのオークニー諸島(メインランド島)にある「ハイランドパーク蒸留所」で使用されているピートも独自の個性を持っています。

オークニー諸島で採れるピートには「ヘザー(ヒース)」が多く堆積。ヘザーとは、荒地や岩肌に咲いている、小さな花をつけるツツジ科の灌木のこと。

アイラ島やその他の地域でもヘザーは存在していますが、オークニー諸島のワイルド・ヘザーは、花を咲かせてミツバチを集める特性があります。そのことから、この地域のピートで造られたウイスキーは「ヘザー・ハニー」の香りがあるとされています。

一言で「ピート」と呼ばれてはいますが、ピートは採取する地域で性質が異なるため、ピートの産地によってもモルトに付与されるフレーバーは大きく変化するのです。

 

 

 

ピート(peat)とは?風味の強さとフェノール値

ピートを燃やすことで大麦麦芽にスモーキーな個性を与えるわけですが、付与されるピートのフレーバーには「強弱」があり、香りの強さを表す基準値として「フェノール値(ppm)」という数値が用いられています。

フェノール値とは、大麦麦芽をピートで乾燥させた際に発生する「フェノール化合物(フェノール総合値)の濃度のこと。一般的にはこの数値が高いほど、大麦麦芽はスモーキーであると判別することができますが、これはあくまでも「大麦麦芽時の状態」で測られた数値。

ウイスキーにおけるスモーキーさは製造工程でも変化していくため、大麦麦芽の時点でのフェノール値の値は、一定の基準とはなるものの、ウイスキーのピート香をはっきりと示すものとはなりません。

 

主要なシングルモルトに使用されている大麦麦芽のフェノール値

ハイランドパーク(20ppm)【オークニー諸島】
レダイグ(35 ppm)【マル島】
タリスカー(22 ppm)【スカイ島】
ボウモア(25ppm)【アイラ島】
ラガヴーリン(35 ppm)【アイラ島】
ラフロイグ(45 ppm)【アイラ島】
アードベッグ(50 ppm)【アイラ島】
オクトモア(80~309 ppm)【アイラ島】
ポートシャーロット(40 ppm)【アイラ島】
ブルックラディ(0 ppm)【アイラ島】
ロングロウ(50 ppm)【キャンベルタウン】
スプリングバンク(15 ppm)【キャンベルタウン】
ヘーゼルバーン(0 ppm)【キャンベルタウン】

※【】は地域。0ppmはノンピート。

 

フェノール値はピート香の強さを判断する目安。

「0ppm」は、ノンピーテッド麦芽で仕込まれていることを表しています。大麦の製造時にピートを一切使用せずに、「温風」などで乾燥させているもの。反対に「50ppm」を超える「ヘビリーピーテッド」は、最初から最後までピートの燻煙で乾燥させています。

その「中間」となる「ライト~ミディアムピーテッド」の場合は、温風とピート燻煙の両方を行い、それぞれの時間を調整しながら適度にピート香を付与させています。

 

  • 乾燥の作業を最初から最後まで「ピート」の熱源を利用。
    →ヘビリーピーテッド麦芽(強烈にスモーキー)
  • 乾燥の作業を最初から最後まで「ピート」を使用せず「温風」を利用。
    →ノンピーテッド麦芽(クセが全くない)
  • 乾燥の作業を「ピート」と「温風」の両方で行う。
    →ライト~ミディアム ピーテッド麦芽。スモーキーさはピートの燻煙時間に比例。長くなればクセが強くなる。
ユースケ
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大麦麦芽のフェノール値は、

・ピートの採取地域(ピート自体の質)

・ピートによる燻煙時間
によって決まります。

 

 

ピート(peat)とは?蒸留所と製麦業者

出典:By Lakeworther – Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=7578037

自家製麦から機械化へ

「製麦業者」とは「モルトスター」とも呼ばれており、大麦麦芽を専門に作る会社のことです。

かつては「製麦(モルティング)」の作業は、蒸留所が自らの手で行っていましたが、現在ではほとんどの蒸留所が製麦業者から大麦麦芽を購入しています。

蒸留所で製麦を行わなくなった理由はいくつかありますが、その一つに蒸留所で行われていた伝統的な手作業(フロアモルティング)よりも、製麦業者が行う機械化された製麦の方が効率が良く、大麦麦芽の品質も均一化できることが挙げられます。また、製麦工場で作られたものを買った方が、蒸留所で製麦するのに必要な人件費などのコストを抑えられるのもメリットとなっています。

しかし、伝統的な製麦である「フロアモルティング」に未だこだわる蒸留所も存在しており、「自家製麦」の文化は途絶えたわけではありません。

仕込みの一部を自家製麦芽で行うところもあれば、フロアモルティングで全ての大麦麦芽を作る蒸留所(スプリングバンク)も存在しています。

 

 

フェノール値を指定する

ウイスキーの蒸留所は大麦麦芽を製麦業者に注文する際に「フェノール値」を指定。場合によっては、炊き込むピートの産地、例えば「アイラ島のピートを使ってほしい」などと細かく注文することもあります。もしピートの度合いがフェノール値(ppm)で表わされていなければ、蒸留所と製麦業者のやり取りが困難になるのは言うまでもありません。

原料である大麦麦芽の個性はウイスキーの味わいに直結します。蒸留所は理想とするウイスキーをつくるために、製麦業者と協力して最適な大麦麦芽が入手できるように努めているのです。

ユースケ
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蒸留所が指定するフェノール値がライト~ミディアムの場合、
製麦業者はピーテッドモルトとノンピートモルトをブレンドして希望にあったピートレベルに合わせています。

 

使用するピートの量

ピーテッド麦芽を作る際に使用するピートの量は、大麦1トン当たり約200kgとされています。

ピートの燻煙は、乾燥を始めてから初期の状態で、大麦がまだかなり湿っている時(麦芽の水分量15~30%)のときが最もよく吸収されますが、約200kgというのはあくまでも参考数値。ピートは自然が生み出した燃料なので、採取産地やその時の状態によって使用する量は変わります。

つまり、ピートの状態によっては、最初から最後まで燻煙で乾燥させたとしても、最高レベルのフェノール値50ppmに届かない場合もあるとのこと。

この話を聞いたとき、改めてピートの偉大に気が付きました。ピーテッド麦芽は「工業製品」ではなく、あくまでも「農業製品」。ピートも大麦麦芽も「生き物」ですね。

 

 

ピート(peat)とは?ウイスキー以外の活用方法

出典:my friend, Y. Kohno – Original Photo was taken by my Friend, Y.Kohno on April, 2005, and released with his acceptance., CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=649455による

ピートは大麦麦芽に香りをつける以外にも活用方法があります。

燃料

スコットランドの一部地域では、ピートを「薪」の代わりに暖炉で使用したり、キッチンで料理の熱源としても使用されています。

ピートを利用する理由は単純。化石燃料よりも値段が安いから。仮に自宅の敷地内が「ピート層」であれば、掘り起こして乾燥させれば、タダで天然の燃料が手に入ります。

「ピートを燃やしたら部屋が臭くなってしまうのでは?」といった疑問も思いつくかもしれません。

実は一言で「ピート」といっても、ピート層はいくつかの種類に分かれており、ウイスキーには燃やした時に香りが強くでてくる部分を使用していますが、燃料としては比較的香りが穏やかなピートを利用しています。

ユースケ
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香りの強い「層」は主に上層部。
最上部の「リター層」よりも下の、「腐葉層」や「腐植層」と呼ばれている所から採取されたピートを主に使用しています。

 

園芸用

ピートは園芸用の土にも利用されています。

ピートは主に苔を原料としていることから、吸水性が高く、土に混ぜることで保水性が高まり、肥料の成分を長く蓄えることができるようになります。

また、繊維質を多く含むため、ふわふわとした土に改良することもできます。適量のピートを混ぜることで、通気性がよくなり根腐れを防止する効果もあります。

ピートはもともと土(泥)ですから、土壌改良剤として使われるのが本来の姿とも言えるのかも。

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食品の燻製

燻製ブームの昨今、食品の燻製にもピートを使うことが増えています。

スモーク用の燻製材にピートを適量加えることで、木材系の燻煙とは異なる、重厚で独特な香りをつけることができます。

「スモークチップ」を使用する場合は適量のピートをブレンドして加熱。「スモークウッド」の場合は、ウッドに火を着けてから上にピートの粉末を乗せて燃やします。

ピートで燻製させたベーコンやナッツをお供にスモーキーハイボールを愉しむ…

何から何まで、ピートのお世話になりっぱなし(笑)

燻製用のピートスモークパウダー↓

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ピート(peat)とは?おすすめの「ヘビリーピーテッドウイスキー」3選

ピートをふんだんに使用した、おすすめのシングルモルトスコッチウイスキーをご紹介。スモーキーな香りが爆発。王道の3本です!

ラフロイグ10年

ラフロイグ10年

  • 地域:アイラ島
  • フェノール値:45ppm
  • Amazon価格:¥6,377 税込
  • 700ml 40%

「ラフロイグ10年」はテイスティングコメントでは「正露丸」「消毒液」「ヨードチンキ」などの表現が多用される、キング・オブ・ピーティー。

ピートによるフレーバーにもいくつかの種類がありますが、ラフロイグは「薬臭い」風味が特徴的です。ウイスキーというよりは薬品。いや、むしろ薬品よりも薬臭い(笑)。初めて飲んだ時の衝撃は、未だに忘れることができません。

ラフロイグのオフィシャルボトルには「セレクトカスク」や「クォーターカスク」などがありますが、最もクセが強いのは、やはり「ラフロイグ10年」。ピートの偉大さがわかる1本です。

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アードベッグ10年

アードベッグ10年

  • 地域:アイラ島
  • フェノール値:50ppm
  • Amazon価格:¥6,040 税込
  • 700ml 46%

「ラフロイグ」と並ぶスモーキーモルトの定番。「アードベッグ10年」はフェノール値50ppmの大麦麦芽を使用したヘビリーピーテッドウイスキー。ラフロイグと同じ「アイラ島のスモーキ―モルト」ですが、両者の個性は似ているようで若干異なっています。

ラフロイグは「薬品臭」を強く感じますが、アードベッグはどちらかというと「燻製」「BQQ」などのような、焼け焦げたフレーバーを感じます。そのほか、熟成樽の違いからフルーティーなフレーバーが豊富なところもアードベッグの魅力。

麦芽のフェノール値はアードベッグのほうが高くなっていますが、感じ方次第ではラフロイグの方がスモーキーに感じるとの意見もあれば、アードベッグの方がやっぱりクセが強い!と主張する方もいます。

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ラガヴーリン8年

ラガヴーリン8年

  • 地域:アイラ島
  • フェノール値:35ppm
  • Amazon価格:¥6,143 税込
  • 700ml 48%

「ラガヴーリン8年」は、フェノール値こそ「ラフロイグ」「アードベッグ」よりも低い設定ですが、負けず劣らないスモーキーさを感じるウイスキーです。フラッグシップは「ラガブーリン16年」ですが、8年物は16年物よりも熟成年数が短いことで、ピーティーな風味をより強くと感じます。

アルコール度数は若干高めの48%。スモーキーなタイプのウイスキーには向いている強さです。ラフロイグやアードベッグと比べ、熟成樽からのニュアンスが控えめであることから、コクのあるスモーキーさとフレッシュなヨード香を感じます。

個人的には16年物の方が好きですが、ピートの風味をパワフルに味わいたいのであればラガブーリン8年を選ぶ方がベスト。両ボトルを飲み比べるのもおすすめです。

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ピート(peat)とは?スモーキーモルトを紹介している記事

「たるブログ」のスモーキーなウイスキーを紹介しているおすすめの記事↓

 

 



 

 

ピート(泥炭)はシングルモルトにスモーキーな個性を与えるほか、モルトウイスキーを原酒とする「ブレンデッドウイスキー」にも、ピーティーな風味が程よく反映されることで、ウイスキー全体に複雑さや奥行を生み出します。

伝統的なスコッチウイスキーになくてはならない存在。自然がつくりだした偉大なるピートに感謝。

ユースケ
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あなたの人生がウイスキーで幸せになることを願っています。最後までご覧頂きありがとうございました。それでは、また。

 

 

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