アイリッシュウイスキー蒸留所51カ所解説|Slane スレーン
スレーン
地域:アイルランド共和国・ミーズ州
創業年:2017
アレックス・カニンガム氏
ミーズ州にあるスレーン城の敷地内に創業した蒸留所。
北アイルランド紛争が激化していた1981年、カトリックとプロテスタントの対立は血なまぐさいテロ事件を引き起こすまでに激化していました。そのような状況下で、スレーン城の城主は、人々の心をひとつにする楽しいイベントを考え、野外ロックコンサートを開催することになります。
その後、城主の息子であるアレックス・カニンガム氏は、父が開催した野外ロックコンサートに続いて、スレーン城を人々にさらに開放するため、ウイスキーの蒸留所を作ることにします。アメリカの大手ウイスキーメーカーである「ブラウンフォーマン社」とパートナーシップを組み、スレーン城の納屋を改造して2017年にスレーン蒸留所を創業します。
スレーン蒸留所の仕込み量はワンバッチ麦芽3トン。モルトウイスキー、ポットスチルウイスキー、グレーンウイスキーの3種類を製造しています。蒸留設備はモルトとポットスチル用の単式蒸留器が3基と、グレーンウイスキー用の連続式蒸留機が1セット設置されています。スチルは全て、スコットランドのマクミラン社製。
熟成樽は主に3種類を使用。
- ブラウンフォーマン社製のアメリカンホワイトオークの新樽
- ジャックダニエルに使用したバーボンバレル
- オロロソシェリーカスク
スレーン蒸留所のウイスキーは、まだ日本では未発売ですが、アメリカ市場ではブレンデッドウイスキーなどがすでにリリースされており、人気のアイリッシュウイスキーとなっているようです。ブラウンフォーマン社の販売網は流石ですね…
アイリッシュウイスキー蒸留所51カ所解説|Boann ボアン
ボアン
地域:アイルランド共和国・ドロヘイダ郊外
創業年:2017
パット・クーニー氏
ダブリンから北へ1時間ほどの位置にあるボイン渓谷に、2017年に創業したのがボアン蒸留所。ボアンとは「ボイン川の女神」であり、現在のアイルランド人の祖先と言われています。創業者のパット・クーニー氏。クーニー家はアイルランドで長年、飲料・酒類のビジネスに携わっています。
ボアン蒸留所は2017年にオープンし、実際にウイスキーの蒸留がスタートしたのは2019年12月から。それ以前はクラフトビールの製造販売、サイダーやジンもつくっていました。また、他社のウイスキー原酒を使用した「ホイッスラー」(クーリー蒸留所の原酒を使用)というブランドを、当初からリリースしています。
ボアン蒸留所は全面ガラス張りのモダンなデザイン。最近は、スコットランドでもガラス張りのデザインでつくられているクラフト蒸留所は多くなっていますが、ホームページを見る限りでは、その中でもボアン蒸留所はゴージャスな造りではないでしょうか。内装には大理石も使用されています。
ウイスキーはモルトとポットスチルの2種類を製造。主力は3回蒸留で造られているポットスチルウイスキー。蒸留器は3基あり、イタリアのグリーンエンジニアリング社製。
ポットスチルウイスキーの製造には、過去のレシピブックを参考に、昔ながらのポットスチルウイスキーのレシピを再現しています。モルトウイスキーと違い、多くの穀物(大麦、大麦麦芽、ライ麦、小麦、オート麦)を使用するポットスチルウイスキーの場合は、マッシュビル(穀物の混合比率)は重要です。配合によって異なる味わいとなります。
ボアン蒸留所では穀物の比率による違いを検証しており、様々な比率でポットスチルウイスキーを仕込んでいます。これは、いままでのアイリッシュウイスキーでは行っていなかった試み。今後の展開が楽しみですね。
アイリッシュウイスキー蒸留所51カ所解説|Teeling ティーリング
ティーリング
地域:アイルランド共和国・ダブリン
創業年:2015
ザ・ティーリング・ウイスキー・カンパニー
2015年に開業したティーリング蒸留所は、アイルランド・ダブリンに125年ぶりに誕生したウイスキーの蒸溜所です。
かつてはビール工場やウイスキー蒸留所が立ち並んでいたリバティーズ地区にある古い倉庫を改装する形で操業。ティーリング蒸溜所でのウイスキー製造のほか、インディペンデントボトラー(独立瓶詰業者)として原酒を買い付け、販売も行っています。
2017年にはバカルディ社がティーリングの一部株式を買収(バカルディグループとしては初のアイリッシュ市場への進出)
近年、クラフト蒸溜所の建設ラッシュとなっているアイリッシュウイスキーですが、ティーリング蒸留所はその中でも先駆けて誕生し、すでに多くのウイスキーファンから支持を受けている人気蒸溜所です。ティーリングの成功は、他の多くのクラフト蒸留所にとって刺激となったことは間違いありませんね。
ティーリング蒸留所の定番ラインアンプには、「スモールバッチ(ブレンデッドウイスキー)」「シングルグレーン」「シングルポットスチル」「シングルモルト」などのがあります。
- 「スモールバッチ」と「シングルグレーン」は「クーリー蒸留所」の原酒を使用。
- 「シングルポットスチル」と「シングルモルト」が、ティーリング独自の原酒で構成されています。
ティーリング蒸留所では、ポットスチルウイスキーとモルトウイスキーの両方を、3回蒸留で製造しています。1バッチの仕込み量は3.5トン。麦汁の量は約1万5000リットル。
モルトウイスキーには、スコットランドから輸入したピーテッドモルトとノンピーテッドモルトの両方を使用。(メインの仕込みはノンピーテッド)
ポットスチルウイスキーは、モルトと未発芽大麦(アイルランド産)を比率50:50で合わせて仕込みを行っており、麦芽はノンピートのみを使用しています。
ポットスチルはイタリアのフリッリ社製。初留、後留、再留の計3基のスチルには、創業者であるジャック・ティーリング氏の3人の娘の名前が付けられています。
Teeling ティーリング のおすすめウイスキー
ティーリング シングルモルト
ティーリング シングルモルト
ティーリング シングル ポット スチル ウイスキー
ティーリング シングル ポット スチル ウイスキー
ティーリング ブラックピッツ
ティーリング ブラックピッツ
アイリッシュウイスキー蒸留所51カ所解説|Dublin Liberties ダブリンリバティーズ
ダブリンリバティーズ
地域:アイルランド共和国・ダブリン
創業年:2018
クインテッセンシャル社・ストックスピリッツ社
ダブリンリバティーズ蒸留所は2018年に創業されましたが、実際のウイスキーの生産が始まったのは2019年から。まだ創業して間もないクラフト蒸溜所です。ティーリング蒸溜所の隣に位置していますが、オーナーは全く別の会社となっています。
ティーリング蒸留所の仕込み水は市水(水道水)ですが、ダブリンリバティーズ蒸留所は敷地内にある深井戸の水を仕込み水に利用。リバティーズ地区の水を使用することは、地域の復興に貢献するとの考え方から、井戸水が採用されています。
ウイスキーの製造はモルトウイスキーのみ。アイリッシュ伝統のポットスチルウイスキーは造っていません。実際の所、200年程前までは伝統的に造られていたウイスキーは「ポットスチルウイスキー」ではなく、2回蒸留のモルトウイスキーが主流でした。原価の安い、未発芽の大麦などを使ったポットスチルウイスキーは、カジュアルな存在だったのかもしれませんね。
ダブリンリバティーズ蒸留所の仕込量はワンバッチ麦芽2トン。原料は全てのアイルランド産。抽出される麦汁の量は1万リットル。ポットスチルは3基あり、2回蒸留と3回蒸留の両方を行うことができます。生産能力は年間70万リットル。
ダブリンリバティーズとティーリングは隣接していますが、両蒸溜所とも熟成庫を持っていません。これは市の条例により熟成庫を設置できなかったため。熟成庫はダブリン郊外に確保しています。
ちなみに、貯蔵庫が蒸溜所に併設してない蒸溜所はスコッチにも存在しています。アイラ島の「カリラ」は本土の集中熟成庫に保管されていますし、マル島のトバモリーも、蒸溜所に貯蔵スペースがほとんどないことから、原酒は本土に送られて熟成をしています。
ダブリンリバティーズは2023年6月、自社の原酒を使用したウイスキーはリリースしていません。既存商品はクーリー蒸溜所やブッシュミルズ蒸溜所の原酒を使用しています。
Dublin Liberties ダブリンリバティーズ おすすめウイスキー
ザ・ダブリン リバティーズ コッパーアレイ
ザ・ダブリン リバティーズ コッパーアレイ
アイリッシュウイスキー蒸留所51カ所解説|Roe & Co ロー&コー
ロー&コー
地域:アイルランド共和国・ダブリン
創業年:2019
ディアジオ社
2019年6月、ロー&コ蒸留所はダブリン・リバティーズ地区としては4番目に誕生した蒸留所。ダブリンで最大の蒸留所であった「トーマス・ストリート蒸留所」の一角だった場所にあります。「ロー&コー」という蒸留所名は、19世紀半ばに蒸留所を大きく発展させた人物「ジョージ・ロー」から付けられています。
トーマス・ストリート蒸留所は1757年に創業し、「ロー一家」によって200年近くにわたって運営されていました。18世紀半ばのアイリッシュウイスキーの全盛期には、世界最大の蒸留所として知られており、8基のスチルを備え、年間約800万リットルのポットスチルウイスキーを生産していました。
しかし、19世紀末から20世紀初頭にかけて、スコッチウイスキーとの競争に敗れると、アメリカの禁酒法の影響もあり、1923年に閉鎖されます。
2014年に、ディアジオ社によって改装することが発表され、閉鎖後にレンガ造りの巨大な発電所(ギネスの発電所)として使われていた建物は、ウイスキー蒸留所に生まれ変わりました。
蒸留器は、ディアジオ傘下のアバクロンビー社製のポットスチルを3基設置。2回蒸留と3回蒸留のモルトウイスキーを生産しています。年間の生産能力は50万リットル。
すでに蒸留所名を冠したアイリッシュ・ブレンデッドウイスキーがリリースされていますが、中身のウイスキーはどこの蒸留所で造られたものかは不明です。
「Roe & Co ロー&コー」おすすめウイスキー
ロー アンド コー
ロー アンド コー
アイリッシュウイスキー蒸留所51カ所解説|Pearse Lyons ピアースライオンズ
ピアースライオンズ
地域:アイルランド共和国・ダブリン
創業年:2018
ピアース・ライオンズ氏
1190年に建てられた歴史ある建物「セント・ジェームズ教会」を改装してつくられた蒸溜所。蒸留所名はオーナーの名前をそのまま使用しています。
ピアース・ライオンズ氏の出身は北アイルランドとの国境に近いダンダークという地域。ピアースライオンズ蒸溜所の他、アメリカ・ケンタッキー州のレキシントンに「タウンブランチ蒸留所」を設立しています。
ピアースライオンズ蒸留所は、世界で唯一の教会を改装する形で誕生した蒸留所です。2019年にはベスト・ビジター・エクスペリエンス賞を受賞し、2020年にはトリップアドバイザーによって世界トップ100の観光名所の一つに選ばれています。ピアースさんは2018年に亡くなりましたが、ビジネスはライオンズ夫人と子供たちに引き継がれています。彼らはケンタッキーのパイクビルにも第3の蒸留所を所有し、一家の故郷であるダンダークには巨大なビール工場も建設しており、アイルランドとアメリカの両国で発展を続けています。
ピアースライオンズ蒸留所の仕込み量はワンバッチは麦芽200 kg。クラフト蒸溜所で一般的な仕込み量が500㎏であることを考えると、かなり小規模。
ポットスチルは2基。ケンタッキー・ルイビルのヴェンドーム社製。初留はバルジ型で、再留はヴェンドーム社のハイブリッド式蒸留器を採用。創業当初はノンピート麦芽でモルトウイスキーを製造していましたが、現在はポットスチルウイスキーの生産も行っています。
2024年現在、日本で購入できるのはクラフトジンのみとなります。
アイリッシュウイスキー蒸留所51カ所解説|Lambay ランベイ
ランベイ
地域:アイルランド共和国・ランベイ島
創業年:?(2017年頃からリリース)
ベアリング家&カミュ家
大手コニャックメーカーのカミュ家5代目である「シリル・カミュ氏」と、かつてニューヨークのウォール街を席巻した、ベアリングス銀行の8代目「アレックス・ベアリング卿」の2人がコラボレーションし、ランベイのブランドは誕生しました。
ランベイは正確に言うと「蒸留所」ではありません。ウイスキーを原料から生産している訳ではなく、ウエストコーク蒸留所から原酒を購入し、島で熟成させる方法でウイスキー造りを行っています。熟成のみを行う手法からすれば、「ボトラーズ」に近いかもしれません。
そしてランベイとは、ベアリング家が所有するプライベートアイランドで、ダブリンの北東沖に位置する周囲100キロほどの小さな島の名前。元々ヴァイキングがつけた名称で「子羊の島」という意味になります。
カミュ社ではコニャックを「イル・ド・レ島」という島で生産しており、「イル・ド・レ ファインアイランド」というコニャックをリリースしています。そして、コニャックだけでは飽き足りず、イル・ド・レ島のような島でアイリッシュウィスキーを造ることにも興味を持っていました。
一方、ランベイの所有者であるベアリング卿は、島の有効活用を模索していました。とあるきっかけで二人は意気投合し、共同でウイスキー事業を始めることになります。
ランベイではすべてのウイスキーの熟成に、カミュの熟成に使ったフレンチオーク樽(コニャックカスク)を使用しています。熟成庫は海のすぐ傍にある漁師小屋を改造して作られています。熟成庫は小さいもので、現在では約100樽近くの樽が置かれているとのこと。
ランベイウイスキーは2017年に初めて発売され、わずか数年で世界30か国以上で販売。シングルモルトの他、ブレンデッドモルトやブレンデッドウイスキーをリリースしています。
「Lambay ランベイ」おすすめのウイスキー
ランベイ シングルモルト バッチ1
ランベイ シングルモルト バッチ1
ランベイ スモールバッチ ブレンド
ランベイ スモールバッチ ブレンド
ランベイ ブレンデッドモルト
ランベイ ブレンデッドモルト
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