【2024年版】日本のウイスキー蒸留所114か所解説|広島県
83.SETOUCHI DISTILLERY
日本酒「千福」を造る三宅本店が創業したウイスキーとジンを造る蒸留所。瓶詰め工場を再利用する形で蒸留所をオープンさせています。2022年から蒸留開始。
SETOUCHI DISTILLERYの仕込み水は自社の井戸から取り入れた「灰ヶ峰の伏流水」を利用しています。1バッチあたりの仕込み量は極めて小さく、麦芽250kg。英国産、オーストラリア産、国産の麦芽を用い、2本のローラーモルトミルで粉砕しています。
マッシュタンは1,000リットルの容量を持つステンレス製で、温水を4回に分けて注入。通常は1次麦汁と2次麦汁を分けて抽出していますが、ここでは4回の温水注入過程で行います。
発酵槽は、容量1,000リットルのビール用ステンレス製で、4基が備わっています。使用する酵母は、ドライの蒸留酒酵母やエール酵母などが混合されています。900リットルの麦汁に対し、酵母500gを投入し、1週間かけて発酵。
蒸留器はハイブリッド式が1基と、バルジ型のポットスチル1基の、計2つ。現在は、初留をポットスチルで行い、再留はハイブリッドスチルを使用。通常のミドルカットではなく、留液全体が適切なアルコール度数になるまで蒸留を続けるユニークなシステムを採用しています。
熟成には主にオロロソシェリー樽を。貯蔵庫はラック式。ウイスキーのリリースは2025年以降に予定されています。
2022年4月には「ニューポット瀬戸内」がリリースされ、2023年には「ニューボーン瀬戸内 Aged 1 Year」の抽選販売が行われています。
また、SETOUCHI DISTILLERYで造られている「クラフトジン瀬戸内 檸檬」は、瀬戸内のレモンをキーボタニカルにした、柑橘の風味がしっかりと香る、クオリティの高いクラフトジン。ウイスキーよりも一足先に話題となっています。
84.SAKURAO DISTILLERY
オーナー: サクラオブルワリーアンドディスティラリー
創業年:1920年
所在地:広島県廿日市市桜尾一丁目12番1号
公式HP:https://www.sakuraodistillery.com
SAKURAO DISTILLERY(桜尾蒸留所)「旧 中国醸造株式会社」、現在は「株式会社サクラオブルワリーアンドディスティラリー(サクラオB&D)」の100年の節目である2018年にオープンした蒸留所です。
蒸留所がある、広島県西部・廿日市市は、瀬戸内に面した海沿いある街。蒸留所からは海の向こうにある世界遺産「宮島」を見ることができます。宮島は厳島神社のある島で、世界中から多くの観光客が訪れています。
サクラオブルワリーアンドディスティラリーは、中国醸造時代の1920年にはウイスキー製造免許を取得しており、80年代には「戸河内」「グローリーエキストラ」などのウイスキーをリリースしていましたが、89年にウイスキーの蒸留は休止されました。SAKURAO DISTILLERYの開設により、再びウイスキーを生産しています。
仕込み水は小瀬川水系の伏流水。大麦麦芽はクリスプ社製のノンピーテッドと、50ppmのヘビリーピーテッドタイプを使用しています。ワンバッジの仕込み量は1トン。
ステンレス製の発酵槽とマッシュタンを使い、蒸留器はホルスタイン社製のハイブリッドスチル(再留)が1基と、ランタン型(初留)が1基の計2基。
別棟ではグレーンウイスキー造りもスタートさせています。グレーンの製造はステンレス製スチルに銅製のコラム塔を取り付けたハイブリッド蒸留器で行われています。初留はこの蒸留器で減圧蒸留。再留は既存の焼酎用ステンレス蒸留器で常圧蒸留。その後、コラム塔でアルコール度数を上がて精留しています。この特殊な蒸留システムをグレーンウイスキーに使用しているのは、世界で唯一SAKURAO DISTILLERYのみとなっています。
また、グレーンウイスキーの原料は、通常使用されているトウモロコシや小麦ではなく、国産の未発芽の大麦。大麦90%と大麦麦芽を10%の割合で仕込まれています。
ウイスキーの熟成は蒸留所内の「桜尾貯蔵庫」と、山地にある戸河内トンネル内「戸河内貯蔵庫」の二カ所で行われており、戸河内貯蔵庫で熟成させた原酒は「シングルモルト戸河内」として販売しています。戸河内トンネルは旧国鉄時代の「廃トンテル」。ダンネージ式で樽が積まれており、全長750mのスペースに4000樽の貯蔵が可能。
面白いのが熟成環境。非常に湿気の多い環境で熟成したウイスキーは樽の中身が減ることなく(エンジェルズシェアが無く)、水分が吸収されることでアルコール度数が落ちるそうです。
このことは、2021年にリリースされた初のシングルモルトウイスキー「シングルモルトジャパニーズウイスキー桜尾 1st Release CASK STRENGTH」と、「シングルモルトジャパニーズウイスキー戸河内 1st Release CASK STRENGTH」を比べると理解できます。桜尾のアルコール度数は54%であるのに対し、同じ3年物でありながら戸河内は52%となっています。
この二つを比べることで、戸河内貯蔵庫で熟成させたウイスキーは「量」は変わらないのに、アルコール度数が落ちるという、特異な状態が起こっていることを理解できます。
2022年からは通年商品のシングルモルト「桜尾」「戸河内」をリリース。同時に「シングルモルトジャパニーズウイスキー桜尾 シェリーカスク スティルマンズセレクション」も発売。「クリームシェリー樽」で熟成させた原酒を使用しています。
SAKURAO DISTILLERYではその他に、広島県産のボタニカルを一部使用しているクラフトジン「桜尾ジン」も生産しており、スピリッツコンペティションで高く評価されていることから人気となっています。
モルトウイスキー、グレーンウイスキー、ジン。それぞれが個性的で他の蒸留所とは異なる独自路線の蒸留酒を生産するSAKURAO DISTILLERY。これからさらなる期待が高まります。
SAKURAO DISTILLERY|おすすめのウイスキー
シングルモルトジャパニーズウイスキー 桜尾
シングルモルトジャパニーズウイスキー 桜尾
シングルモルトジャパニーズウイスキー 戸河内
シングルモルトジャパニーズウイスキー 戸河内
85.SAKURAO YOSHIWA WHISKY PARK(仮称)
オーナー:サクラオブルワリーアンドディスティラリー
創業年:準備中
所在地:広島県廿日市市
公式HP:なし
サクラオブルワリーアンドディスティラリーが山口と島根の県境近くの山間部に計画中の蒸留所。ウイスキーの蒸留所を中心としたテーマパーク構想で、投資額は数十億円規模。
2025年秋の完成を予定しています。
【2024年版】日本のウイスキー蒸留所114か所解説|徳島県
86.阿波乃蒸溜所
阿波乃蒸溜所は、徳島県初のウイスキー蒸留所であり、四国で唯一の酒類総合メーカー「日新酒類」が設立した蒸留所です。日新酒類は江戸時代末期から続く酒造りの伝統を持ち、「瓢太閤」という清酒の造り手として知られています。日本酒の他、リキュール「阿波の香り すだち酎」や、芋焼酎「鳴門金時 里娘」、クラフトジン「AWA GIN」なども手がけています。
同社は1949年からすでにウイスキーの製造を行っていました。「ヤングセブン」や「騒」といったブランドをリリースしていますが、2023年に本格的な生産設備を備えた阿波乃蒸留所を開設。
ポットスチルは初留器、再留器ともにケミカルブラント社製。1バッチの仕込み量は500kgで、約2,600リットルの麦汁を抽出しています。
仕込水には清流・吉野川の伏流水。麦芽はポールズモルト社製のノンピート麦芽を使用。樽詰め度数は平均「63%」。貯蔵庫はラック式3段で熟成させています。
【2024年版】日本のウイスキー蒸留所114か所解説|福岡県
87.ニッカウヰスキー 門司工場
オーナー:ニッカウヰスキー(アサヒグループホールディングス)
創業年:2010年代
所在地:福岡県北九州市門司区大里元町2-1
公式HP:https://www.asahibeer.co.jp/enjoy/shochu/process/monji_07.html
大正3年(1914年)に「鈴木商店大里酒精製造所」として操業を開始し、現在ではニッカウヰスキーの所有する、長い歴史を持つ工場。
ニッカウヰスキー門司工場は、単式蒸留器を用いて造られている「一番札」などの、本格焼酎を造る工場として稼働していました。焼酎の他にも、スピリッツやリキュールなども製造。2010年代からはウイスキーの蒸留も行っています。
2017年から、門司工場は大麦(丸麦)を原料とするグレーンウイスキーの製造を開始。
門司の大麦グレーンは鹿児島県にある「ニッカウヰスキーさつま司蒸溜蔵」よりも規模が大きく、蒸留器も同じステンレス製の焼酎蒸留器。サイズは約10倍もあります。
さつま司が通常の2回蒸留を行うのに対し、門司では初留は減圧、再留は常圧で行います。その結果、ニッカウヰスキー門司工場のウイスキーは、より軽やかで清涼感がありながらも、麦の風味が程よく感じる味わいに仕上がっています。
「ニッカウヰスキーさつま司蒸溜蔵」と同様に、2023年に発売された「ニッカ ザ・グレーン」の原酒の1つとして重要な役割を果たしています。
ニッカウヰスキー 門司工場|おすすめのウイスキー
ニッカ ザ・グレーン
ニッカ ザ・グレーン
88.朝倉蒸溜所
新道蒸留所を運営する「篠崎」の所有する蒸溜所。
89.新道蒸留所
オーナーは江戸時代からの老舗酒蔵「篠崎」。「国菊」「比良松」などの清酒や焼酎を製造しており、2020年に朝倉蒸留所を開設。樽熟成した焼酎やそれをベースにしたリキュールをつくっています。
本格的なウイスキー造りを目指して、朝倉蒸留所とは別に開設したのが、福岡県初のウイスキー蒸溜所「新道蒸留所」。製造設備はすべて日本の三宅製作所製。
仕込み水は硬度85度の地下水。大麦麦芽はイギリス産のノンピーテッド麦芽をメインに、一部ヘビリーピーテッド麦芽も使用しています。ポットスチルは5800リットルのストレート型初留器、3300リットルのランタンヘッド型再留器の計2基。両方ともラインアームの角度は水平であり、冷却装置としてシェル&チューブコンデンサーが使用されています。
新道蒸留所では、1週間単位で複数の仕込み方法を採用しており、糖化時のマッシュレイショや、発酵に複数の酵母を用いたり、それに伴い複数のパターンの発酵時間を採用したりしています。これにより、多様な酒質を目指しており、特に重層的な香りを持つウイスキーを目指しているとのこと。
熟成にはバーボンバレルをメインに使用しており、さらにシェリー樽やミズナラ、栗の新樽なども使い、バリエーション豊かに様々な樽を試しています。また、この蒸留所は「森から育てるウイスキー」を標榜しており、自社林からの木材で発酵槽や樽を製作する計画を立てています。現在は、「ミズナラ」や「ニッケイ」などの広葉樹の植樹に積極的に取り組んでいます。
2022年9月に、ニューポット「新道New Make Whisky」を1600本限定でリリース。2023年はニューポット・ピーテッド「新道New Make ピーテッド」を発売し、すべて完売済となっています。
90.西吉田酒造
西吉田酒造は「吉田焼酎製造所」として1893年に創業した老舗蔵元。
2023年9月にウイスキー製造免許を取得し、2024年に製造開始を予定しています。
【2024年版】日本のウイスキー蒸留所114か所解説|長崎県
91.梅ヶ枝酒造 梅ヶ枝酒造
梅ヶ枝酒造は、清酒「梅ヶ枝」の蔵元であり、焼酎やリキュールも製造しています。2023年から長崎県初となるウイスキー造りを開始。ドイツのホルスタイン製ハイプリッド蒸留器を導入し、原酒を全て自社で蒸留して商品化を目指しています。
92.佐世保蒸留所
オーナー:元盛せせらぎ酒造
創業年:準備中
所在地:長崎県東彼杵郡波佐見町折敷瀬郷1742番地12
公式HP:なし
2023年にウイスキー製造免許を取得。生産準備中。
【2024年版】日本のウイスキー蒸留所114か所解説|大分県
93.久住蒸溜所
大分県竹田市にある「阿蘇くじゅう国立公園」の一角に開設した蒸留所。大正時代から酒販事業を営む「津崎商事」がオーナーとなっています。津崎商事は「シングルモルト通販 洋酒専門店TSUZAKI」を運営している会社です。ウイスキー好きの方なら一度はカタログやホームページを見たことがあると思います。
久住蒸留所は店舗の敷地内にあった倉庫を改装する形で誕生。2021年にウイスキー製造免許を取得し蒸留を開始しています。仕込み水は名水百選に選ばれた、阿蘇山系の伏流水を水源とする地下水を使用しています。
蒸留所の製造設備は秩父蒸留所から習う形で導入していることから、フォーサイス社製。ワンバッジの仕込み量は500㎏。ポットスチルは初留2500リットル、再留1800リットル。共にストレートヘッド型。
熟成庫はダンネージ式の第一熟成庫と、5段のラック式第二熟成庫があり、合わせて1200樽の貯蔵が可能となっています。
2022年6月に「久住NEWBORN」をリリース。バーボンバレルで7か月熟成となるニューボーンですが、限定本数約3000本はすぐに完売となりました。そして2023年には、バーボンバレルで15か月熟成させた「久住New Bron」第二弾を2900本限定リリース。海外モルトをあわせた「ブレンデッドモルト Green Dram(グリーンドラム)」なども発売しています。
久住蒸留所|おすすめのウイスキー
久住蒸留所 NEW BORN # 03 ニューボーン
久住蒸留所 NEW BORN # 03 ニューボーン
ブレンデッドモルト Green Dram(グリーンドラム)
ブレンデッドモルト Green Dram(グリーンドラム)
【2024年版】日本のウイスキー蒸留所114か所解説|熊本県
94.山鹿蒸溜所
熊本県初のウイスキー蒸留所として2021年11月から稼働しているのが「山鹿蒸留所」。焼酎を生産する工場からウイスキー蒸留所へと転換する形で誕生しました。オーナーは「山鹿蒸留所」。関係企業である本坊酒造からの技術支援を受けて生産しています。
仕込み水は国見山系と菊池川水系の深層地下水。大麦麦芽はノンピートとフェノール値50ppmのヘビリーピーテッドタイプを使用。ワンバッジの仕込み量は1.1トン。
生産設備はほとんどが三宅製作所製で、モルトミルだけはドイツ製です。ポットスチルはバルジ型の初留器6000リットルと、ストレートヘッド型の再留器3000リットル。スチルの内部には「邪魔板」が取り付けられており、この遮蔽板がスチル内に設置されていることで、雑 味を除去することができるとのこと。この邪魔板は本坊酒造の蒸留所にも採用されています。
熟成庫は5~6段のラック式。3300樽が貯蔵可能。山鹿蒸留所では夏冬の寒暖差が45℃となっており、湿度も高いことから比較的早く熟成が進むかもしれません。
2022年には「YAMAGA DISTILLERY NEW POT」(アルコール60%)をリリース。蒸留所にはバーカウンターの試飲コーナーやショップも併設しており、オリジナルグッズやニューポットも販売しています。
山鹿蒸留所|おすすめのウイスキー
山鹿 ニューポット#5 ピーテッド
山鹿 ニューポット#5 ピーテッド
95.山都蒸留所
山都蒸留所は「森の酒蔵」として知られ、焼酎の製造に従事している「山都酒造」のウイスキー蒸溜所。2017年にウイスキーの製造免許を取得し、2020年には「山都」というブランド名でシングルライスウイスキー「保之助」をリリースしています。
2022年には、グレーンウイスキー「蘇陽峡」、プレンデッドウイスキーの「国見岳」、玄米原料の「保之助シルバー」をリリース。
96.大石酒造場
1872年創業の球磨焼酎を造る老舗焼酎メーカー。東京ウィスキー&スピリッツコンペティションでは焼酎部門で「特別限定酒大石」が金賞を獲得しています。
これまでスピリッツを樽熟成した「OHISHI WHISKY」を海外へ輸出していましたが、2022年からはウイスキー製造免許を取得し蒸留を開始しています。蒸留器は銅板を組み込んだ独自のステンレススチルを使用しています。
大石酒造場の仕込みは1バッチ400㎏。英国産モルトを使用。発酵槽はステンレス製で、合計4基。熟成庫はラック式。
2023年7月には「水上ウイスキー ニューポット」を限定1,000本で販売しています。
97.常楽酒造
大正元年創業の老舗本格焼酎蔵元「常楽酒造」は、アメリカ企業の委託を受けて米焼酎を樽熟成させた「KIKORI RICE WHISKEY」という商品を販売していましたが、2021年にウイスキー製造免許を取得。
そして、初のグレーンウイスキーとなる「RICE WHISKY 常楽」2022年12月に発売。この商品はドイツ産モルトと国産米を使用し蒸留したウイスキー原酒に、本格米焼酎を樫樽で熟成させた原酒をブレンドしたものとなっています。
98.田野蒸留所
オーナー:高橋酒造
創業年:準備中
所在地:熊本県人吉市田野町
公式HP:なし
「旧田野小学校」をリノベーションする形で計画中のウイスキー蒸留所。2024年4月からシングルモルトの製造を開始する予定です。
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