【2023年5月 秩父蒸溜所見学】イチローズモルトのウイスキー造りを解説

【2023年5月 秩父蒸溜所見学】イチローズモルトのウイスキー造りを解説|秩父第2蒸溜所とは?

ベンチャーウイスキー秩父第2蒸溜所とは?

ベンチャーウイスキーの第2蒸溜所として2019年10月から蒸留開始。第1蒸溜所の約5倍の生産能力をもつイチローズモルトの重要な生産拠点。第一蒸溜所で造られるウイスキーとの相乗効果と製品の安定供給が期待されています。

第2蒸溜所は初留器・再留器ともに「ガス直火焚き」を行っているのが最大の特徴です。

この方法は、創業者の肥土伊知郎氏が「ウイスキー造りの原点」と考えるスタイルを追求するために設置されています。直火焚き加熱は間接加熱(スチーム加熱)に比べ、複雑で力強い香りや味わいを引き出すことができます。

また、第1蒸溜所とは発酵槽にも違いがあります。第2蒸溜所ではミズナラ製ではなく、フランスのタランソー社に発注したフレンチオーク材を使用。第1蒸溜所とは異なる乳酸発酵が行われることで、多様な原酒造りが可能となっています。

 

秩父第2蒸溜所の基本データ&生産設備

ベンチャーウイスキー秩父第2蒸溜所

所在地:埼玉県秩父市みどりが丘79
オーナー:ベンチャーウイスキー
生産開始:2019年
仕込水:大血川から取水する市水
年間生産能力:26万リットル(LPA)
麦芽仕込量:ワンバッチ 2トン
大麦麦芽:ライトリーピーテッド、ミディアムピーテッド 、ヘビリーピーテッド
ドイツ及びスコットランド産ノンピート麦芽、スコットランド産ピーテッド麦芽、埼玉県産。
モルトミル:ローラーミル(アランラドック製×1基、ディストナー(ビューラー製)×1基
マッシュタン:ステンレス・セミロイタータン(サイトグラス付き・フォーサイス製)
麦汁量:1万リットル(糖度約14度)
イースト菌:ディスティラリーイースト(プレスイースト)50kg
ウォッシュバック:フレンチオーク(フランスのタランソー社製)×5基
発酵時間:約100時間
蒸留器:初留ストレート型(フォーサイス製)×1基 1万リットル
再留ストレート型(フォーサイス製)×1基 7,000リットル
加熱方式:ガス直火焚き蒸留
冷却装置:シェル&チューブ
樽詰度数:約63%
ウェアハウス:ダンネージ式及びラック式(第1蒸溜所と共有)

 

【2023年5月 秩父蒸溜所見学】イチローズモルトのウイスキー造りを解説|秩父第2蒸溜所の製造方法

秩父第2蒸溜所|麦芽の粉砕

2019年に完成した秩父第2蒸溜所は近代的な設備となっており、第1蒸留所とは全く違う雰囲気。生産能力が5倍というだけあって、一部の手作業が機械によって行われていたり、製造管理もモニターが導入されています。

上の写真は原料のモルトが入っている袋を撮ったもの。第1蒸留所で見たモルトの袋は20㎏のサイズ。こちらは一つで1トンという巨大なサイズ。

 

破砕を行うモルトミルのサイズも大きくなっています。破砕されたグリストは2階にあるマッシュタンへと運ばれます。麦芽の仕込量はワンバッチ2トン。

 

秩父第2蒸溜所|糖化(マッシング)

糖化槽(マッシュタン)はフォーサイス社製の「セミロイタータン」を採用。

内部にはレーキという熊手状の撹拌翼が付いており、レーキが固定式のものを「セミロイター」と呼びます。

小規模な蒸溜所でも、ほとんどがこのようなセミロイタータインを導入しています。

こちらを見学した後に思い返せば、第1蒸溜所の発酵槽は昔ながらのスタイルだということが理解できますね。

このマッシュタンには「サイドグラス」という窓であり、内部の麦芽の様子を観察することができます。第一蒸留所の発酵槽は上部が開いていますから、サイトグラスはありませんでした。

 

側面からも麦芽の様子を見ることができます。

秩父第2蒸溜所でつくられる麦汁の量は、ワンバッチ約1万ℓ。

 

秩父第2蒸溜所|発酵(ファーメンテーション)

発酵槽は5基。すべてフランス・タラソー製のフレンチオークで作られたものを使用。

第2蒸溜所も第1蒸溜所と同じく「ミズナラ製」にしたかったそうですが、第2はサイズが大きくて、必要なミズナラを確保するのが難しく、更にミズナラ材の希少価値が上がってしまったこともあり断念しています。

しかし、広葉樹であるフレンチオークもまた、秩父蒸溜所がこだわる乳酸発酵を促せる木材です。ミズナラとは異なる乳酸菌が住み着き、第2蒸溜所は独自の乳酸発酵によってウイスキー造りができています。

参考までに、他の蒸溜所の発酵槽の材質は以下の通りです。

  • 山崎蒸溜所 ダグラスファー製&ステンレス製
  • 白州蒸溜所 ダグラスファー製
  • 余市蒸溜所 ステンレス製
  • 宮城峡蒸溜所 ステンレス製
  • マルス信州蒸溜所 ダグラスファー製&ステンレス製
  • 富士御殿場蒸溜所 ダグラスファー製&ステンレス製

ステンレス製とダグラスファー製を使い分けている蒸溜所も結構多いですね。

どちらが良いという訳ではなく、それぞれに特徴があり、発酵槽を使い分けることで異なる個性の原酒造りを行っています。

 

蒸留にまわす直前の発酵槽を見せて頂きました。

ツンとしたビネガーのような香りが刺激的ですが、その後に感じるのはフルーティーなアロマ。白ワインやヴィンテージ・シャンパンのような果実香。

なんか飲めそう。飲めないけど(笑)

 

秩父第2蒸溜所|蒸留(ディスティレーション)

ポットスチルも秩父第1蒸溜所と異なっています。

秩父第2蒸溜所では、初留釜・再留釜ともにスチームによる間接加熱ではなく、ガスを熱源とする直火焚きを採用。肥土氏が理想とする「ウイスキー造りの原点」である直火焚き蒸留は、秩父蒸溜所を開設して以来の目標でした。

第1蒸溜所の操業当初から、直火焚きの導入は考えていたそうですが、火力の調整が難しくコストもかかることから、スチーム加熱を採用していたそうです。

ポットスチルのサイズは初留釜が1万ℓ、再留釜が7000ℓ。第1蒸溜所よりも5倍の大きさですが、直火焚きによって力強い原酒を造ることが可能です。蒸留液のボディに厚みがあるととで、長期熟成にも耐えれる原酒をつくることができます。

 

ラインアームには「サイトグラス」という窓があって、そこから蒸留液が沸騰している様子を見ることができます。この日は蒸留中だったので、泡状の液体が時折すごい勢いで上がっていました。

 

蒸留器の周りは耐熱レンガで固定されています。直火焚きならではの光景。

 

直火焚きのポットスチルには「ラメジャー」という攪拌装置が付いています。

直火焚きは間接加熱よりも高温になるため、釜の底に沈んだ酵母などの固形成分が焦げつきやすくなるため、ラメジャーというチェーンが回り続け、かき混ぜながら蒸留を行っています。

過度に焦げ付くのを防ぐためにラメジャーがあるのですが、焦げ付くことで香ばしさや重厚なフレーバーを蒸留液に生み出すことができるのも、直火焚き蒸留の利点のひとつと言えます。

 

秩父第2蒸溜所の「ヘッズ」「ハーツ」「テール」の香りも嗅がせて頂きました。

一日で2か所の蒸留液をノージングできることはまずないと思います。ホントに貴重な経験です。

「ヘッズ(フォアショッツ)」は第1蒸溜所と同様、鼻にツンとくる感じですが、第2蒸溜所のほうがソフトです。「ハーツ」の部分にもまわせるのではないかと思うほど。

「ハーツ(ミドル)」は、モルティーでフルーティーな風味が豊かになり、刺激もある程度抑えられています。やはり第1蒸溜所に比べると優しい感じ。

「テール(フェインツ)」になるとかなりクリアでスムースな印象。クセが少なくてよりニュートラル。

この日ノージングしたものは、ミディアムピーテッドモルトで仕込んだものでしたが、スモーキーさを感じることはありませんでした。話を聞くと、ピーティーな風味は「ハーツ」から「テール」にかけての間が、強く風味がでるとのこと。つまり今回のサンプルはその部分ではないので、強いクセを感じませんでした。

このサンプルを飲むことはできませんでしたが、今回のようなサンプルを実際に飲んでみると、ノージングでは感じられないスモーキーさがあるという話もお聞きしました。

確かに、香りではフルーティーさが主体になっているのに、口に含んでみるととクセの強いウイスキーってありますよね。

 

秩父第2蒸溜所|第7貯蔵庫での熟成(マチュレーション)

2021年に完成した第7貯蔵庫は秩父蒸溜所としては初の「ラック式」の熟成庫。秩父第2蒸溜所生産棟のすぐ隣にあります。

秩父蒸溜所の第1~6までの貯蔵庫は、伝統的な「ダンネージ式」。土の床に木のレールを敷き、樽を並べて上部三段まで積み上げて熟成させます。スコットランドでも、現在もこの貯蔵方式が一般的です。

それに対して「ラック式」は近代的な貯蔵方式。鉄製の巨大な棚に樽を並べていくスタイルで、ダンネージ式に比べると狭いスペースで多くの樽を熟成させることができます。

また、原酒を入れた樽は、フォークリフトでパレットごとに移動させることが可能。ダンネージ式のように積み上げていないため、樽を取り出す作業効率は格段に良いものとなります。

 

第1貯蔵庫(ダンネージ式)と比べ、空間に対しての樽密度が高いためかアルコールの揮発を強く感じます。飲まなくても酔っ払いそう(笑)

貯蔵庫の気温はわかりませんが、外よりも涼しく感じました。

 

特注のフォークリフトを使って樽を出し入れします。

第7貯蔵庫の完成によって、これまでストックすることが難しかった長期熟成を増やすことも可能になりました。「秩父の30年物を飲んでみたい」とする肥土氏の思いを感じます。

 

貯蔵庫の外には、これから原酒を詰めるための空樽が置いてありました。

第7貯蔵庫では、第1と第2蒸溜所で造られたウイスキーを熟成している他、海外から買い付けた原酒も熟成させています。どちらかというと、海外原酒(秩父蒸溜所で樽を入れ替えている)の方を優先的に貯蔵しているそうです。

 

 

次のページでは樽工場(クーパレッジ)を解説

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