【スコッチウイスキーレビュー】キルホーマン13年を評価

ユースケ
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こんばんは ユースケです。

自己紹介:BAR WHITE OAK 店主。ウイスキー文化研究所認定 ウイスキーエキスパート。JSA認定ソムリエ。2022年1月 東京・銀座にBAR WHITE OAK をオープン。YouTube、TikTokでカクテル動画を公開中!

「キルホーマン13年」は、アイラ島の自然の恵みと伝統的な製法を巧みに活かされており、キルホーマン蒸溜所の精緻な製造哲学が反映された限定ボトルです。ヘビーピーテッド麦芽を使用し、13年という熟成期間を経て完成したこのウイスキーは、アイラモルトならではの力強いスモーキーさと、カルヴァドス樽で仕上げられたフルーティーで複雑な風味が見事に調和しています。

この記事では、「キルホーマン13年」のテイスティングレビューを中心に、ボトルの評価やキルホーマン蒸溜所の歴史・特徴、その魅力まで詳しくご紹介します。

 

キルホーマン蒸溜所(Kilchoman Distillery)とは?

出典:Ayack – 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4910476による

キルホーマン蒸溜所 Kilchoman Distillery

  • 地域:アイラ島
  • 創業年:2005年
  • 所有企業:キルホーマン・ディスティラリー社
  • 蒸留器:初留×2基・再留×2基
  • 年間生産量:60万リットル

キルホーマンの誕生と哲学

キルホーマン蒸溜所は、アイラ島の最西端に位置しています。2005年に創設された当時、アイラ島では124年ぶりの新しい蒸溜所でした。その後、2018年に「アードナッホー」が設立されるまでは、島で最も新しい蒸溜所として知られていました。

創業者はアントニー・ウィルズ氏。スコットランド最小クラスのポットスチルを使い、フロアモルティング(大麦を床で乾燥させる伝統的な製法)を実践するなど、徹底した「ファーム・トゥ・ボトル」のアプローチで、ウイスキーを生産しています。

キルホーマンが特に注目される理由は、アイラ島の特性を最大限に活かした製品作りにあります。島内で栽培した大麦を使用し、地元の風土を生かした製法でモルトを製造。さらに、熟成にも徹底的にこだわり、バーボン樽やシェリー樽、ポート樽などの多様な樽を使用して、個性豊かなウイスキーを生み出しています。

「クラフトディスティラリー」の先駆者

キルホーマンは、単に手作りでウイスキーを作るだけではなく、現代の消費者ニーズに合わせたサステナブルな生産体制も確立。ファームディスティラリーとして、製造過程のすべてがアイラ島内で行われ、原材料の全てを地元産にこだわります。この「テロワール」を重視したウイスキー造りは、キルホーマンらしい個性に直結しており、歴史が浅い中でも独自性のある商品をいくつもリリースしてきました。

2009年に発売された、キルホーマン初のシングルモルト「キルホーマン マキヤーベイ」は、その品質とユニークな味わいでウイスキー愛好家に受け入れられ、これがキルホーマンの世界市場進出の扉を開けることとなります。

熟成樽のこだわり

キルホーマンのウイスキーには、熟成における一貫した哲学があり、バーボン樽を中心に熟成されています。その他、シェリー樽やポート樽、さらにソーテルヌ、ラム、マデイラ、コニャックなど、様々な種類の樽を使用。一貫性を保ちながらも、製品ごとの独自性も大切にしています。

特に、ファーストフィル(1回目の樽)を使用することで、比較的短い熟成期間であっても、豊かな香りと味わいを生み出しており、他のアイラモルトとは異なるアプローチを続けています。

キルホーマンのウイスキーは、その深みのあるピートスモークとフルーティーな味わいが特徴です。アイラモルト特有のスモーキーさをしっかりと保ちながらも、シェリー樽やワイン樽などの、豊かなフレーバーを持つ「フレッシュな樽」を緻密に利用することで、華やかな香りとバランスの取れた個性を生み出しています。

 

出典:Ayack – 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=5307920による

フロアモルティングによる自家製麦芽

キルホーマン蒸溜所では、全体の約30%を自社製麦で賄っています。大麦は、蒸溜所周辺の自社の畑で栽培されたもの使用。製麦には伝統的な「フロアモルティング」を採用しています。また、乾燥に使用するピートもアイラ島産。自家製麦芽のフェノール値は20ppm程度。

自家製のモルトに加えて、アイラ島のポートエレン社から仕入れた50ppmのピーテッドモルトも使用。スモーキーでピーティーな原酒造りを行います。

増産戦略と設備投資

キルホーマン蒸溜所では、2019年に設備を増設。既存と全く同じ形状のマッシュタンと、ウォッシュバック6基、ポットスチル2基を増設。これにより、年間生産量は60万リットルにまで増加しています。さらに、2020年には、新しいビジターセンターがオープンし、訪れる人々にキルホーマンの魅力を伝えています。

 

主なラインナップ

定番商品

  1. キルホーマン マキヤーベイ(Machir Bay)
    アイラ島らしいピート香とフルーティーさを両立した、キルホーマンの代表作。バーボン樽熟成により、レモンゼストやバニラ、桃や梨の香りが広がり、ピートスモークや海塩のアクセントが後から追いかける。軽やかで飲みやすく、初めてキルホーマンを楽しむ人にもおすすめの一本。

  1. キルホーマン サナイグ(Sanaig)
    オロロソシェリー樽の熟成原酒を使用した、深みのあるシェリーモルト。重厚なピートスモークに、レーズンやオレンジピール、アプリコットの香りが重なり、完熟プラムやキャラメル、ダークチョコレートのような味わいが口に広がる。フルボディでしっかりとした余韻を楽しめるため、シェリー樽好きにはたまらない逸品。

  1. キルホーマン バッチストレングス(Batch Strength)
    カスクストレングスでボトリングされるシリーズで、より力強いピート感と樽由来の複雑なフレーバーが魅力。通常のボトルよりアルコール度数が高く、スパイシーで濃厚な味わい。日々のバッチごとに微妙に異なる個性も楽しめ、マニア向けのコレクションアイテムとして人気。

限定商品

  1. キルホーマン ロッホゴルム(Loch Gorm)
    シェリー樽熟成を中心に造られた特別な限定リリース。重厚でリッチな香味に、チョコレートやドライフルーツ、スパイスの複雑な層が重なる。ピートスモークがしっかりと香るが、シェリー樽由来の甘みがそれを優しく包み込み、長く続く余韻が楽しめる。

  1. キルホーマン ポートワインカスク(Port Wine Cask)
    ポート樽で熟成させた原酒を用いた限定ボトル。赤い果実やベリーの熟した香りに、チョコレートやナッツのような甘やかさが加わり、スモーキーなピートがアクセントになる。ワイン樽ならではの芳醇さとアイラモルトの個性が絶妙に混ざり合った、贅沢な一杯。

  1. キルホーマン 100%アイラ 14th リリース(100% Islay 14th Release)
    自社栽培のアイラ産大麦のみを使用した、島内生産100%の限定リリース。フレッシュでフルーティな香りと、爽やかなピート感が特徴。生産量が少なく手作業が多いため、同じボトルでも微妙に風味が変わるのも魅力。まさに「アイラ島のテロワール」をそのまま体現した一本。

 

 

【スコッチウイスキーレビュー】キルホーマン13年を評価

キルホーマン13年 Kilchoman 13-year-old

 

キルホーマン13年とは?

「キルホーマン13年」は、アイラ島産のヘビーピーテッド麦芽を使用した、限定ボトル。フェノール値50ppm。熟成は主にバーボン樽(バレル、オクタブ)で熟成され、フランスのアップルブランデー「カルヴァドス」の樽で仕上げています。

この商品は、「キルホーマン16年(キルホーマンが初めて年数を表示したボトル)」に続く、2度目の年数明記ボトル。日本市場では960本限定のリリースとなっています。

 

香り

青りんご、洋ナシ、レモン、オレンジ、ドライイチジク、ドライストロベリー、燻製、消毒液、ヨード臭、焼きすぎた魚、カルダモン、バニラ、アーモンド。

加水するとグレープフルーツ、アロエ、マドレーヌ、焦がしたトースト。

 

味わい

甘くてなめらか。ミディアムボディ。すぐに強烈なスモーキーさ。ヨードチンキ、正露丸。酸味と甘みのバランスはよく、中盤以降は若干ドライになりますが、全体的に甘さがあります。フィニッシュにかけてもスモーキーでピーティー。レモンのような柑橘のニュアンスと、白コショウのようなスパイシーさも感じます。余韻の長さは中程度。

加水後はエステリーでフローラルな個性が開きます。口当たりはクリーミー。甘さは控えめになり、加水後のほうがドライな印象。

 

評価

「キルホーマン13年」の評価としては、「さすがは13年物!カルヴァドス樽フィニッシュによる絶妙なフルーティーさと、ピートのバランスに優れたアイラモルト」です。

成長の証:キルホーマンの歩み

キルホーマン蒸留所は2005年創業ですが、日本市場にウイスキーが流通し始めたのは2010年ごろと記憶しています。当時はアイラモルトの中でも新参者であり、限定リリースを除けば酒齢の若い商品(ニューボーン・熟成年数3年以下)が主流でした。あれから約20年が経過し、ついにこの「キルホーマン13年」が飲めるようになったことは、時間の経過の速さを実感させます…。

13年熟成とヘビーピーテッドによる個性

このウイスキーは、前回の「キルホーマン16年」に続く、キルホーマン蒸留所としては熟成期間の長いボトル。これまでの同蒸留所のラインナップは5年〜10年物が中心でしたが、13年という酒齢は、ウイスキーに深い複雑さをもたらし、若さに由来するアルコールの尖った印象が少ないように感じます。

キルホーマンは様々なタイプがリリースされていますが、スモーキーさの印象はボトルによって異なります。今回の「キルホーマン13年」は、フェノール値50ppmのモルトを使用しているだけあり、しっかりとスモーキーでピーティーな個性を主張しています。そのクセの強さは、ラフロイグやアードベッグといったヘビーピーテッドモルトに匹敵しています。

13年という熟成期間を経たことで、強烈なスモーキーさの中に、柑橘やドライフルーツの風味、そして樽香も割としっかりと感じられます。単にクセが強いだけでなく、アイラモルトとしてのバランスが良好に保たれています。

カルヴァドス樽フィニッシュの役割

主軸はオーソドックスなバーボン樽熟成ですが、フィニッシュ(後熟)にカルヴァドス樽を使用している点が最大の特徴です。これにより、フルーティーさと、控えめながらフレンチオーク由来のスパイシーさが加わっています。

「カルヴァドス」は、フランス・ノルマンディー地方のアップルブランデーで、リンゴの華やかな風味を活かすために、新しい樽よりも香りの影響が穏やかな古樽(使用済みの樽)が使われることが多いとされています。これにより、オークのタンニンや香りが強くなりすぎず、果実味と樽香がバランス良く統合されます。近年は、それらの空き樽「カルヴァドス樽」をウイスキーに利用することが多くなっています。

個人的な解釈としては、「カルヴァドス樽」は「オロロソシェリー樽」のように明確な個性をウイスキーに付与するというよりも、モルトウイスキーが持つ本来のフルーティー&エステリーな特性を引き立てる役割があると捉えています。

カルヴァドス樽がフィニッシュに使われるのは、樽の材質がフレンチオーク(リムーザン産やトロンセ産が有名)だからこそです。フレンチオークはタンニンが豊富であるため、ウイスキーに骨格と洗練されたスパイスのニュアンスを与えますが、強すぎるとバランスを失うため、フィニッシュ製法が主流となっています。

計算された樽使い

「キルホーマン13年」は、バーボン樽で主軸となる個性を生み出した上で、カルヴァドス樽フィニッシュにより、アイラモルトらしいスモーキー&ピーティーな風味を活かしつつも、フルーティーさやスパイシーさを適度に加えて複雑性を強化しています。13年熟成によるなめらかさに、さらに磨きをかける「計算された樽使い」が感じられる逸品です。

個人的には、キルホーマンの「PXシェリー」「ポートワイン」「マルサラワイン」といった酒精強化ワイン系フィニッシュも好みでしたが、初めて飲んだこの「カルヴァドス」タイプも、燻製香をより活かす仕上がりで美味しく感じました。

おすすめの飲み方

このウイスキーは、ストレートやロックで楽しむのが特におすすめです。ハイボールでも美味しく飲めますが、カルヴァドス樽由来の上品な個性を堪能するためにも、加水が少ない飲み方でじっくりと楽しみましょう。

 



 

「キルホーマン13年」は、そのピーティーでスモーキーな個性にフルーティーでエステリーな風味が加わり、アイラモルトの中でも一際ユニークな存在となっています。カルヴァドス樽フィニッシュがもたらす複雑さとバランスが、長い熟成期間を経て見事に完成されたこのウイスキーは、ストレートやロックでその魅力を存分に堪能できるでしょう。

アイラ島のテロワールとキルホーマンの哲学が凝縮された「キルホーマン13年」を味わってみたい方は、BARWHITEOAKで堪能してみては如何でしょうか♪

ユースケ
ユースケ

あなたの人生がウイスキーで幸せになることを願っています。最後までご覧頂きありがとうございました。それでは、また。

 

 

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