こんばんは ユースケです。 自己紹介:BAR WHITE OAK 店主。ウイスキー文化研究所認定 ウイスキーエキスパート。JSA認定ソムリエ。2022年1月 東京・銀座にBAR WHITE OAK をオープン。YouTube、TikTokでカクテル動画を公開中!
この記事ではモルトウイスキーの製造に不可欠な単式蒸留器(ポットスチル)について、初心者向けに解説致します。
- そもそもポットスチルってなに?
- ポットスチルにはどんな種類があるの?
- ウイスキーの蒸留について詳しく知りたい!
以上のような疑問をお持ちの方におすすめの内容です。
ウイスキーの製造において、蒸留工程は非常に重要です。蒸留器を理解できれば、今よりもっとウイスキーを楽しむことができるはず。
ぜひ最後までご覧ください♪
ウイスキーの蒸留器「ポットスチル」とは?仕組みや種類について解説
ポットスチルとは?
単式蒸留器=ポットスチルは、モルトウイスキーの製造に使用する銅製の蒸留器のことです。
モルトウイスキーのような、豊かなフレーバーをもつウイスキーを造るときは、「ポットスチル」と呼ばれる蒸留器を使用します。
グレーンウイスキー(ブレンデッドウイスキーのベースとなるウイスキー)を造る際に使用する「連続式蒸留器」と比べ、ポットスチルはサイズが小さく、蒸留したスピリッツのアルコール度数も低いため、香りが豊かで個性的な風味を生み出すのに適しています。
また、ポットスチルは銅で造られているため、熱伝導に優れているほか、蒸留の際に不快な香気成分を除去してくれる働きがあります。
ポットスチルの大きさや形状は蒸留所ごとに異なります。
蒸留器の違いは、造り出されるウイスキーの味わいに影響を与えていることから、ウイスキーの製造におけるポットスチルの重要性は高いといえます。
ポットスチルは消耗品。各パーツが全て銅で作られていて、蒸留をしていくうちに研磨されてすり減っていきます。それぞれのパーツは数年で交換となりますが、耐久年数が異なるため順番に交換されることになります。
ウイスキーの蒸留器「ポットスチル」とは?仕組みや種類について解説|蒸留工程
モルトウイスキーの蒸留(ディスティレーション)工程
ウイスキーの蒸留は、モロミ(ビールのような状態のもの)をポットスチルで加熱して、気化させたアルコールを冷やして蒸留液(ニューポット、またはニュートラルスピリッツ)にする作業のこと。
スコッチウイスキーの場合は、基本的に2回蒸留を行ってウイスキーを製造しています。
最初の蒸留は「初留釜」で行い、その後2回目の蒸留は「再留釜」を使用します。
生産規模が少ない蒸留所でも、初留釜と再留釜が一つずつ、最低でも2基のポットスチルを所有。(マイクロディスティラリーは1基の場合もある)
2回の蒸留を経て、ウイスキーのアルコール度数は70%前後になります。蒸留液は加水を施しアルコール度数の調整が行われたのち、樽につめられて熟成の工程にはいります。
ほとんどの蒸留所が、ニューポットのアルコール度数を63.5%に調整して樽に詰めます。なぜ63.5%なのかは不明ですが、スコッチウイスキーでは「基本の樽詰めアルコール度数」となっています。
各国で異なる?ウイスキーの蒸留回数
スコットランド:基本的に2回蒸留。3回蒸留を行う蒸留所も一部存在している。(オーヘントッシャンや、スプリングバンク蒸留所の「ヘーゼルバーン」など)
アイルランド:基本的に3回蒸留。2回蒸留でスコッチタイプのモルトウイスキーを造る蒸留所もある。
日本:全ての蒸留所で2回蒸留(2024年3月時点)。
その他:インド、台湾、欧米諸国でも、モルトウイスキーを造る際には2回蒸留を行っている。
「初留」「再留」について
初留(一回目の蒸留)
発酵工程で造られた「ウォッシュ(モロミ)」を初留釜に入れ、アルコール分を全てとりだします。アルコール分を含んだ蒸気となり、ラインアームからコンデンサーへと流出。
初留で造られた蒸留液のことを「初留液」、または「ローワイン」と呼びます。 アルコールが蒸発した後に残った「搾りかす」は、家畜の飼料に利用しています。
初留ではウォッシュに含まれるアルコール分を全て回収(全留回収)。アルコール度数「7〜9%」のウォッシュは,3倍程度の「22〜25%程度」の蒸留液となり、再留(再留釜)にまわします。
再留(二回目の蒸留)
再留の工程は初留よりも複雑かつ、ウイスキー造りにとって重要な局面。
初留によって回収されたローワインを、再留釜(スピリッツスチル)移し、再留(ニ回目の蒸留)が行われます。
初留との違いは、スピリッツセイフと呼ばれる箱の中で、「ミドルカット」という工程が行われるところ。この「ミドルカット」とは、不安定な香味をもっている、蒸留初期に流出している「前留(ヘッズ/フォアショッツ)」と、終期の「後留(テイル/フェインツ)」を取り除く作業のことを言います。
つまり、再留でつくられた蒸留液は、すべて樽に詰められてているわけではなく、「蒸留の中盤に流れ出た部分」だけを取り除き、ウイスキーの熟成にまわしているのです。
「ミドルカット」によって、蒸留液として最も品質の良い部分「本留(ハーツ/ミドルカット)」を取り出し、スピリッツレシーバーで樽詰めされるまで一時的に保管されます。
再留で造られた蒸留液「ニューポット/ニューメイク」のアルコール度数は65〜72%程度。そこから加水を行い、最適なアルコール度数に調整された後、ニューポットは樽に詰められ、熟成の工程に入ります。
蒸留液の「3つの状態」
本留の取るタイミングは蒸留所によって異なります。例えば、前留のカットが短いところもあれば、逆に長いところもありますし、ほとんど後留をとらずに本留の割り合いがかなり多い蒸留所もあります。本留をどのように取るのかでニューポットの酒質が大きく変わるのです。
ウイスキーの蒸留器「ポットスチル」とは?サイズ・形状・種類について
ポットスチルのサイズや形状は、蒸留所によって異なります。
ポットスチルのサイズ
ポットスチルの大きさは最小で2000ℓ、最大級で30000ℓ。
ポットスチルはサイズが大きくなることで、モロミと銅の接触面積が大きくなります。これによって、ポットスチルのサイズが大きければ軽くてクリーンな原酒となり、逆に小さければ重くてヘビーな原酒を生み出す傾向となります。
ただし、ニューポットの酒質を決めるのは中留(ミドルカット)のタイミングも影響があるので、ポットスチルのサイズだけが、原酒の個性を決める訳ではありません。
ポットスチルの形状
ポットスチルの形状も、ウイスキーの個性にも影響を与えます。
ヘッド
ヘッドがまっすぐ伸びているタイプと、膨らんだ箇所があるタイプがあります。
蒸気が滞る空間の有無や、その形状によって「還流」に変化が起こることでニューポットの酒質も変わります。ヘッドに空間がある物の方が、還流が起こることからライトな酒質になる傾向にあります。
ネックとラインアームの向き
コンデンサー(冷却装置)に向かうネックの方向によっても酒質は変化します。
- 下向き(ラインアームが斜めに下がっている状態):重厚な酒質になる
- 上向き(ラインアームが斜めに上がっている状態):軽快な酒質になる
- 並行(ラインアームが下でも上でもなく並行に伸びている状態):中間の酒質になる
ポットスチルの種類|一覧
主要なポットスチルの形状の種類と導入している代表的な蒸留所
ストレート(プレーン):胴体とネックが直線、または滑らかに結ばれている。<蒸留所例> スプリングバンク、ロングモーン、マッカラン、カリラ、ボウモア、ハイランドパーク、カードゥ、アベラワー
ランタン:胴体とネック部にくびれがある。ランプ(ランタン)のようなシェイプが特徴。泡立ちやミスト移行を抑えることで、蒸留液がクリーンになる。
<蒸留所例> ザ・グレンリベット、ラフロイグ(再留)、アイル・オブ・ジュラ、オーヘントッシャン、グレンキンチー、オーバン
バジル(ボール):胴体とネックの間に風船(ボール)のような膨らみをもつ。ミスト移行を抑え、銅との接触面積を増加。
<蒸留所例> グレンファークラス、クライヌリッシュ、ブレッドノック、トバモリー、タリスカー(初留)、グレンキース、バルヴェニー
オニオン:ボディ全体が玉ねぎのような丸みをおびている。
<蒸留所例> ラガブーリン、ブナハーブン
ローモンドスチル:ネックが円筒状で、内側に精留のために棚板を設けている(スキャパは棚板なし)。精留作用により香味のライト化が期待できる。
<蒸留所例> ロッホローモンド、スキャパ(初留)
その他:ストゥーパ(仏舎利塔)タイプ、ロングヘッド、T字シェイプ、ウォータージャケット等
ウイスキー文化研究所発行『ウイスキーコニサー資格認定試験教本2018上』からの引用
ストレート(プレーン)
マルス駒ヶ岳蒸留所
ランタン
ザ・グレンリベット蒸留所
バジル(ボール)
グレンファークラス蒸留所
オニオン
ラガヴーリン蒸留所
ローモンドスチル
ロッホローモンド蒸留所
ストゥーパ
グレングラント蒸留所
形状によってウイスキーに与えるの影響
形状によってウイスキーに与えるの影響について。
ストレートヘッド型、オニオン型 :蒸気がそのまま流れていくタイプは、力強い重厚なタイプのウイスキーになる。
バルジ型、ランタン型 : 蒸気が滞留する空間のあるタイプは、軽くすっきりとしたウイスキーになる。
蒸留所に見学に行くと、全て同じサイズ・形状の蒸留器を使っているのかと思いきや、じつは違います。同じ蒸留所内でも異なるタイプの蒸留器を使用することで、多彩な原酒を造り分けています。
ウイスキーの蒸留器「ポットスチル」とは?仕組みや種類について解説|加熱方法
ポットスチルの加熱方法は「直火焚き」と「間接加熱」の 2種類に分けられます。 加熱方法の違いも、ウイスキーの個性に大きく影響を与えます。
直火焚き
直火焚きは、ポットスチルの下から直接火をあてて加熱する方法です。
スコッチウイスキーでは伝統的な製法となっており、かつては多くの蒸留所が直火焚きでウイスキーを蒸留所していましたが、現在はほとんどの蒸留所で行われていません 。火加減の調整が難しいことや、熱源を人力で保つ必要があったりと、作業が大変なことから、現在では直火焚きから間接加熱へとかわっています。
直火焚きでは、焦げ付きを防止するために「ラメジャー」という装置がポットスチルの底についています。これを回転させることで焦げ付きを防止することができます。
お鍋の底をヘラでかき混ぜるような感覚。(実際は鎖みたいなやつが付いています)直火焚きでの蒸留によって、ウイスキーに香ばしさが加わり力強い味わいになる傾向となっています。
直火焚きを行っている蒸留所は、マッカラン、グレンファークラスなどがあります。日本では、余市蒸留所が石炭による直火焚きを続けています。実際に作業をやったことありますが、石炭はけっこう重いし、かまどからの熱がすごくて大変でした。
間接加熱
パイプをポットスチル内に設置して、そこに高温の蒸気をながして加熱する方法。
スチーム加熱とも呼ばれています。効率的に熱を加えることができるため、現在は主流の方式。
直火焚きと比べると軽い味わいになる傾向にあります。
まとめ
ウイスキー初心者向け講座 単式蒸留器(ポットスチル)とは?
→「ポットスチル」とも呼ばれている、モルトウイスキーの製造に使われる、銅製の蒸留器のこと。
ウイスキー初心者向け講座 ポットスチルとは?蒸留工程について
→モロミをポットスチルで加熱して、気化させたアルコールを冷やして液体(ニューポット)にする作業のこと。
ウイスキー初心者向け講座 ポットスチルとは?ポットスチルの形状について
→ポットスチルの形状・大きさが違うことで、つくられるウイスキーの個性も変わる。
ウイスキー初心者向け講座 ポットスチルとは?ポットスチルの加熱方法について
→「直火焚き」と「間接加熱」
ウイスキーづくりにおいて、樽での熟成工程に入ると人の手による仕事がほとんどありません。原酒を樽に入れたら、ウイスキーの熟成を見守ることしかできません。
つまり、人の手にかかる最後の重要な局面が「蒸留」の工程と言えます。
蒸留器の形状を変えたり、熟成にまわすスピリッツの見極めをすることで、良い状態のニューポットを樽に詰めることができるのです。
蒸留は人の手がかかる最後の大仕事。その作業に欠かすことのできない装置が「ポットスチル」。
ウイスキーを生み出してくれるポットスチルに感謝。ありがとうポットスチル!
あなたの人生がウイスキーで幸せになることを願っています。最後までご覧頂きありがとうございました。それでは、また。 高級ジャパニーズウイスキーを定価で買うなら…
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